歴史的建造物の洗浄と修復

高圧洗浄機の草分け的存在であるケルヒャーは、その技術開発力を活かして世界的に有名な建造物の洗浄と修復を手がけています。なかでも対象物がモニュメントである場合、困難な課題が多いプロジェクトとなります。間違った手順や方法によって、貴重で歴史的価値の高い対象物を損傷するリスクがあるからです。適切な洗浄技術を決定するためには、対象物の材料、汚れのタイプと程度、さらには形状や構造の徹底的な分析が必要です。多くの場合、可能な洗浄方法をサンプル表面でテストし、それらの有効性や安全性を確認することが含まれます。洗浄と修復で利用可能な選択肢の中には、低圧粒子ブラスト、高温の蒸気(スチーム)を使用した高圧洗浄、ドライアイス洗浄、およびレーザー技術があります。

モニュメントの洗浄と修復

洗浄・修復に不可欠な準備作業

モニュメントは社会的に重要な建造物であり独自の性質を持つため、作業は所有者、地方自治体、場合によっては修復士、美術史家、および他の専門家を含む様々な関係者の緊密な協力のもとで行われます。また多くの場合、その修復プロセスにおいて洗浄は不可欠な部分となります。

 

状態の分析

ファサード(正面)の洗浄には、建物の外側全体だけでなく、噴水、像、彫刻などの屋外施設の洗浄も含まれる場合があります。徹底的な予備調査と分析を行い、ファサードの材料やその他の表面の老朽化、状態、風化や汚れのタイプと程度を判定します。汚染は無機物汚染と有機物汚染に区別されます。無機物汚染には白華現象、焼結、腐食(金属のファサードの緑青・褐色化)、有機物汚染には煤、鳥のふん、藻類、苔、地衣類、菌類などの繁殖が含まれます。

 

洗浄目標の設定

予備評価には洗浄の専門家も関わり、調査チーム全体で洗浄と修復のゴールを設定します。これには様々な考え方があります。修復が元の状態の再建を意味することもありますが、風化や老朽化が建造物の歴史の不可欠な部分とみなされ、「修正」されてはならない場合もあります。これは国によっても判断が異なります。

モニュメントが石造物の場合、元の形状を保存することは、特に基質が不安定だったり、汚れの粒子が内部に侵入し混合物質を形成したりしている場合、大きな課題となります。そのような場合、適切な洗浄方法を決定するために徹底した包括的な初期評価および調査が不可欠です。入念な分析と洗浄技術のテストを経て落ちにくい汚れを除去すれば、完全性を保持しながら元の石造物の姿を明らかにできるかもしれません。

 

サンプル表面の特定

初期評価が完了し、モニュメントの洗浄目標を設定したら、可能な洗浄技術をテストするためにサンプル表面を特定する必要があります。これによって選択した洗浄技術によって目標が達成できるか、元の材料または物質を損なうことなく修復できるかを見ることができます。

モニュメントの大きさが洗浄と修復に与える影響
サンプル表面の特定

モニュメントの大きさが洗浄と修復に与える影響

歴史的モニュメントの洗浄と修復を扱う多くの場合、その表面や建造物の大きさが、プロセス全体に影響を及ぼす重要な課題となります。

 

洗浄技術の選択

モニュメント洗浄技術のひとつに、非常に良好な結果が得られる高精度のスポット洗浄があります。しかし経済的、技術的な理由により面積が広い面には推奨されません。洗浄に非常に時間がかかることや、例えば、ファサード全体で均一な結果が得られず、まだらになってしまうこともあるからです。

高所での作業
高所での作業
高所での作業

高所での作業

高さのあるモニュメントの洗浄は難しい作業です。広範囲の作業では足場の使用を必要とすることがありますが、狭い範囲の修復では高所作業車やロープアクセス技術者を必要とすることもあります。垂直面は洗浄剤が十分に効く時間がなく、汚れが流出してモニュメントの二次汚染を引き起こす可能性もあります。適切な汚れの処理や洗浄剤の使用も考慮しなければなりません。

粒子と温水/スチーム:2つの最善の方法

粒子と温水/スチーム:2つの最善の方法

モニュメントの洗浄と修復には数多くの技術を利用することができますが、登録建造物と非登録建造物の両方に頻繁に利用される2つの技術として、低圧粒子ブラストと温水またはスチームによる洗浄が挙げられます。

モニュメント洗浄での粒子ジェット:小さく穏やかで効果的
モニュメント洗浄での粒子ジェット:小さく穏やかで効果的

モニュメント洗浄での粒子ジェット:小さく穏やかで効果的

低圧粒子ブラストは、モニュメントのファサードを洗浄し、元の状態に修復するのに非常に効果的な技術です。このプロセスでは、特殊なブラストガンを使用します。ガンには高品質な建設用コンプレッサーからの圧縮空気が供給されます。洗浄中の表面への衝撃を最小限にするため、圧縮空気に非常に細かい研磨剤と水を混合し、塵粒子を結合させます。

コーンミールから石灰、ガラス粉、ドライアイスビーズまで、2,000を超える様々なブラストメディアが使用できるので、特定のニーズに合わせた混合物を簡単に作ることができます。入念に調合された空気、水、研磨剤の混合物は調整可能な圧力でガンのノズルから発射され、オペレーターは空気、水、研磨剤の使用量を調節して作業することができます。この精度管理によって表面を最小限の研磨剤で洗浄することができ、滑らかな研磨仕上げを実現します。

モニュメント洗浄での粒子ジェット:小さく穏やかで効果的
モニュメント洗浄での粒子ジェット:小さく穏やかで効果的

モース硬度

地質学者フリードリッヒ・モース(1773-1839年)は、異なる鉱物同士を比較し、その硬度に従ってランク付けしました。広く認知され手に入りやすい鉱物に数値を割り当てた尺度がモース硬度です。
モース硬度1~2の鉱物は柔らかいと見なされ、3~5は中程度の硬度、モース硬度6以上の鉱物は硬いとみなされます。

モニュメント洗浄におけるドライアイスの特殊ケース

ドライアイスでモニュメント洗浄を行う場合、洗浄粒子は空気中に溶け込み建造物に流下することはありません。しかし洗浄中に表面に作用する圧力はかなり高いため、天然石の表面にひび割れが生じる可能性に留意する必要があります。一方で金属、例えば鋳鉄製の建造物を洗浄する時には、ほとんどの場合良好な結果が得られます。

モニュメント洗浄におけるドライアイスの特殊ケース

温水とスチームによる低圧および無圧洗浄

一般的に、高圧洗浄は繊細な材質のモニュメントに使用することはありませんが、この技術を非常に低圧で、さらには無圧の設定にして使用することができます。例えば、洗浄面からノズルを40cm離すと、ノズル圧力が200barに設定されている時でも表面には1barの圧力すらかかりません。

 

水量とノズル

洗浄能力は、ポンプが生み出す圧力と単位時間あたりにパイプ断面を通過する水量の両方によって変わります。これらの条件が衝撃圧力に影響を与え、表面の汚れを適切な圧力でほぐして除去することができます。これと同等に重要なのは、使用する高圧ノズルです。平型ジェットノズルは作業面積が大きくなり、スポットジェットノズルは局所的な汚れをより効率的に洗浄します。回転ノズルはこの2つの利点が組み合わされていますが、使用は頑丈な表面にのみ推奨されます。

温水とスチームによる低圧および無圧洗浄

モニュメント洗浄における温水の利点

モニュメント洗浄と修復には、冷水・温水高圧洗浄機の両方が使用されています。表面の基質と汚れのタイプによっては80℃以上の温水で作業することができ、それによって洗浄時間を最大60%削減することができます。また温水ジェットはフラッシング効果が高く、蒸気の形成が少なくなります。

 

スチーム設定の利点

スチームの使用は、繊細で亀裂の入った表面に対して、また、融点が高い残留物の除去に対して特に適しており、表面圧力0.5~1bar、最高100℃に耐えられる表面の洗浄に効果的です。スチーム設定をするとポンプ圧力が減少し水量が半分になり、その結果、最高155℃の非常に高い水温になります。スチームを使用した洗浄は藻類、苔、地衣類を穏やかに除去して深く根付いた胞子を大幅に軽減し、新しい成長を遅らせます。また除草剤などの薬剤の使用が不要になります。

 

特殊ケース: 金属ファサードに対する超高圧技術

金属製のモニュメントのライムスケール(石灰質の水垢)除去には高圧技術での洗浄が効果的です。ただし洗浄前に類似材質で必ず洗浄テストを行いましょう。400~500barの圧力、および平型ジェットノズルと回転ノズルの様々な組み合わせにより、損傷なく焼結物を除去することができます。

モニュメント洗浄における温水の利点
洗浄と修復における他の技術

洗浄と修復における他の技術

モニュメントの洗浄と修復には、粒子ジェット、温水高圧とスチームに加えて、特殊な作業に適したレーザー技術による洗浄が挙げられます。

 

レーザー技術の効用

石材の表面が黄ばむリスクがあったため、レーザー洗浄は以前には一般的に使用されていませんでした。しかし、最近の技術の進歩によって、より具体的な用途が可能になりました。適切な持続時間と照射条件に関する知識があれば、ナノ/マイクロ秒範囲のレーザーパルスを安全で静かに使用し、下層の表面を損傷することなく石の破片、金属酸化、塗装汚れを除去することができます。

効果的な洗浄のためには、表面と汚れの間にはっきりとした色の対比がなければなりません。これは暗い色の汚れがレーザー光に吸収され、薄い層に切断されるのに対し、明るい色の表面は光を反射するからです。サンプル表面で効果をテストし、正しいパラメーターを選択することによってレーザー洗浄は効果的な方法となります。

ケルヒャーの文化支援:洗浄・修復の実施

ケルヒャーは文化支援の一環として、ここ数十年間で150以上のモニュメントに対し洗浄と修復を実施してきました。例えばローマのサン・ピエトロ広場の柱廊をはじめ、エジプト・ルクソールのメムノンの巨像、ギリシャ・アテネやピレウス近郊の各種指定建造物、パリのオベリスク、ドイツのケルン大聖堂などです。

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ケルヒャーの文化支援:洗浄・修復の実施

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